「Dead Hunter」 



                      
第二話

 朝靄のかかる裏路地…あたりには小鳥の声が響き渡り、
 エイミーハウスにも朝が来た…
 昨日の夕刻…ダイスとコールの訃報を届けに来たのは、
 王立騎士団の若者であった…
 その若者の話では、ダイスとコールらしき死体は黒こげで…
 家族に持ち物と着衣を見せて…本人で有る事を確認したらしい…
 騎士団は、リーガの森の北部を危険地域に指定し…
 炎系ダギオンに多額の賞金を掛け…魔法学院へ協力を頼んだ事を
 ハンター達に伝え…その騎士団の若者はエイミーハウスを後にした…
 決起盛るハンター達をいさめたのは…エイミーハウスのオヤジ…
 ”ガレン・マグハザー”であったのは…一見不思議に思う者も居るだろうが…
 ハンター達に信頼の厚い…元ハンターの意見に反論する者は居なかった…
 そして…ダギオン達の行動が活発な夜を避け、朝から炎系ダギオンを
 捜索し…総出で退治する事に決まった…もちろん賞金は山分けと言う事で…
 そしてその朝が来た訳だが…エイミーハウスに集まったハンター達は…
 5人…昨日の30人は下らない人数は何処吹く風…と言った有様…

「…まぁ…これでも集まったほうか…」

 こんなもんさ…と言わんばかりに口を開いたのは…ガレン…
 エイミーハウスのオヤジだった…
 今朝は控え目に端のテーブルに着き、朝食をついばんで居るカーナとハミル…
 その二人の方を向き、オヤジが言う…

「あんたらはどうする…?…つっても、あんたらには関係無い事なんだがな…」

 そう言うとオヤジは『フッ…』と寂しげに笑って見せた…が…
 ハミルはニコリともせず答えた…

「そうね…あたし達には関係無い事だから…」

 そう言い終わるとハミルは口にちぎったパンを放り込んだ…

「まぁ…そうだよな…魔法戦力は欲しい所だが、しょうがねぇ〜な。」

 そう言い、オヤジは店を出る…その後に続き5人のハンター達も、
 エイミーハウスを後にした…

「…ね〜ハミル〜…着いて行かなくて良いの〜?」

 カーナが心配そうにオヤジ達が歩いて行く姿を窓越しに眺めながら…
 ぽつりと呟いた…
 ハミルはしばらく自分のパンをじっと眺めていた…が、おもむろに言い放つ…

「…しょうがないじゃない…突然現れた者が首を突っ込む事じゃないし…」

 そう言うと、またパンをじっと眺めるハミルだった…
 しばらく何か考えていたカーナが声を上げる…

「あぁ〜!…分かった〜!…ハミルは魔法学院の人たちに会いたく無いんでしょ〜?」

「ぐはっ!…うぐっ…」

 ドンドン!
 ハミルは突然のカーナの言葉にパンを喉に詰まらせ、あわてて胸を叩いて居る…
 目の前のミルクを一気に飲み干し、キッ!とカーナを睨み付け言い放つ…

「ち…ちがうわよ!」

 明らかに顔色が変わったハミルを面白そうに見ながらにやけてカーナが続ける…

「ふ〜ん…図星なんだ〜…そう言えばハミルはここの
 魔法学院出身だって言ってたもんね〜♪」

「ち…ちがうって言ってるでしょ〜!」

 顔を真っ赤にし、あわてふためきながらハミルは否定し続けたが…
 無駄な抵抗で有る事はハミル自身が良く分かっていた…
 これだけあわてれば誰でも疑うと言う物だ…
 そこえ突然エイミーハウスの扉が開いた…

 『ギー…カランカラン…』

 扉を開けた主は…静かに顔を出した…
 その主はキョロキョロとあたりを見回し…ハミルを見て…

「…ハミル・ガーランド?…なんであなたがここに!」

 驚く女性を見てハミルは「アチャ〜!」…と言わんばかりに片手で顔を押さえて言う

「クリム・サーシン…久しぶりねぇ〜…はは…」

「ハミル!…久しぶりよねぇ〜♪…って…そうじゃなくて、なんであなたがここに?」

 カーナにいたっては、いまいち状況が飲み込めずキョロキョロしている…

「で?…何の用なの?」

 口火を切ったのはハミル…そう言われ、不機嫌そうな顔を見せたクリムだったが…
 事の次第を告げる…

「ここに集まっているハンター達が森へ入るって言うから、院長に言われて様子を
 見に来たのよ…今、魔法学院の方でも準備してるから早まるなってね」

「………」

 それを聞いたハミルとカーナ…お互いの顔を見合わせ冷や汗をながしている…
 見る見る内に顔を赤くさせたハミルが言い放つ…

「あんた!何でもっと早く来ないのよ!!」

 言われてクリムは…怯みながらも言い返す…

「だって…だって…あたしって低血圧なんだもん…ぐす…」

 すかさずカーナが…

「あぁ〜!…ハミルが泣かせた〜!」

「あんたは、黙ってなさい!!」

「はいぃ!…あうぅ…」

 カーナの抗議?もハミルの一括で却下され…
 意気消沈のカーナとクリム…良いコンビかも知れない…と
 ハミルが思ったかどうかは知らないが、とにかく、ハミルは店の戸に走る…

「ハミル〜…何処行くの〜?」

 カーナの情けない問いに、店の戸にてをかけたハミルがカーナ達を見ながら言う…

「オヤジさん達を追うのよ!」

 ハミルに言われて、手をポンと鳴らしカーナも立ち上がった…

「ハミル!あたしも行く〜♪」

「ちょ…あんた達、待ちなさいよぉ〜!」

 クリムも慌ててカーナの後を追う…
 そして、ハミルが店の戸を開けた瞬間…

「るぁえぇ!!」

 ハミルが訳の分からない声を上げたかと思うと…突然、

「ファイヤーボール!!」

              『ドッカ〜ン!!』

 戸の外めがけてファイアーボールをぶちかますと言う暴挙に出たハミルを…
 呆気にとられ、目が点状態のカーナとクリムがほけら〜と見つめる…

「…ぜぇ〜…ぜぇ〜…あぁ〜ビックリした〜…」

 そんな二人の眼差しはお構いなしに言い放つハミル…
 (ビックリしたのはこっちだぁ!)と叫びたい気持ちを不屈の意志でかみ殺し…
 冷や汗たらたらでカーナが言う…

「ど…ど〜したのぉ〜?」

 その問いかけにビックリした顔のまま戸の外をハミルは指さしてこう言った…

「……ダギオン」

『ほえぇ!?』




 おとぼけコンビ…あいや、カーナとクリムが間の抜けた声を上げ…
 ハミルの指さす方向を見てみると…
 確かに…そこには無惨にも黒こげになって横たわる…ダギオンが一匹…

「…これって…街にダギオンが…」

 ぽつりと呟いたクリムの顔が…恐怖にゆがんで居る…

         『ギャァ〜〜〜!!』

 突然、街中から悲鳴が響き渡った…

「……一匹だけじゃない!?」

 ハミルの言葉に、三人はエイミーハウスを飛び出た…
 そこには…悲鳴ともつかない声を上げながら逃げまどう街の人々…
 その光景にクリムはへたり込み…またぽつりと呟く…

「なんで…ダギオンが群れで……」

 間髪入れず、ハミルが街の人を襲おうとしてるダギオンへ呪文をたたき込む…

             『ドカ〜ン!!』

 うながされる様にカーナが特注のロングソードを抜き放ち、
 もう一匹のダギオンへ斬りかかる…

「クリム!何してるの!!…早く学院へ知らせて!!」

 ハミルの声で我に返ったクリム…

「…わ…私も!」

「ここはあたし達でくい止める!あんたはこの状況を院長に伝えなさい!」

 そう言いながら、ハミルはカーナの援護呪文をぶちかます…

『サンダー・ブリッド!!』

            【ドガガガガガガガッ!】

 ハミルが放った呪文は空中で拡散し、小さな粒になってダギオン達に襲いかかる…
 その光景をしばらく眺めていたクリムだが…

「…うん!」

 そう言うと呪文を唱えはじめた…

「レミテーション!」

 クリムは学院目がけて飛び去った…

「…カーナ!…あんた、何体やった?」

 ハミルの問いにカーナが答える…

「三体でぇ〜す♪」

「…あたしは4体……さて、どこまでもつか…」

 フッ…と笑い、ダギオンを睨み付けるハミル…
 その横顔を上りかけの朝日が、赤くそめていた……



                                        続く!


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