朝靄が姿を消し、あたりはすっかり朝日に照らされていた… いつもなら、町の人々が行き交い…活気に溢れる大通りも、 今は…魔法の爆裂音と剣を振るう音だけが響き渡る… そして、町の人々は恐怖に脅え…ただじっと自分達を脅かす者が 過ぎ去るのを待っていた… 「カーナ!生きてる!?」 「か…かろうじて…」 ハミルの問いにカーナは力無く答えた… クリムが魔法学院へ援軍を呼びに行ってから、 かれこれ2時間はたっただろうか… どうやら学院の近くにもダギオンが現れたらしい… 遠くの方から魔法の爆裂音がかすかに聞こえる… 「まったく、次から次ぎへとよくもまぁ沸いて出てくれるわよこのダギオン!」 ハミルの言葉にカーナはうなずきながらも付け加える様に言った… 「でもさぁ〜…こうして話してられる暇は出来る様になったね〜」 確かに…ダギオンの出始めよりは数が少なくなっていたが… 所々にはまだ出現しており、前とは違いこちらから探し出して ダギオンを刈る…と言った感じだろうか… ハミルは一瞬…このままほっておこうか…と言う考えが頭をよぎった…が、 そんな事したら、クリムに有る事無い事言いふらされるにちがいない… うん、クリムは昔からそう言う所が有る子だ…と思い直したのだった… 「う〜ん…」 「…ハミル…何考えてるんだろ…」 そんな事を考えてるハミルは…はたから見ているカーナにとって、 不気味に見えたが…ただ冷や汗を流しながら見守るしかなかった… それこそ、そんな事を言ったら何を言い返されるか分かったものでは無い… と言う事を、カーナは十分過ぎるほど分かっていたからだ… 冷や汗を流しながら見守るカーナ… 砂が舞い上がり…朝日を浴びてキラキラ光っている… 「きゃぁぁ〜〜〜〜っ!!」 あたりの静けさをたちどころに破り、 聞き慣れないその悲鳴にいち早く反応したのはハミルだった… 「カーナ!行くよ!」 「う…うん!」 ハミルにうながされる様に走り出すカーナ… 狭い路地を右に曲がり、暗い道から日の当たる道路へ… そこには悲鳴の主がダギオン3体に囲まれ、 立ちすくんだままブルブルとふるえていた… 白いローブに学院の紋章が刺繍されてる所を見ると、 一目で学院生だと言う事は見て取れた… 「…やっと来たかと思ったら…」 間髪入れず、ハミルは攻撃呪文を唱え始める… それを援護するかのようにカーナはハミルの前に出て、 一番先に反応したダギオンに斬りかかった。 「うりゃ!」 『ガシュッ!!』 不意を付かれたダギオンはほとんど動けずにカーナの剣の錆と化した… 続いて反応するダギオン2体…カーナは応戦する素振りも見せず、 すたこらとその場を飛び退いた… 瞬間、辺りの空気が圧縮された様な感覚に襲われると、 ハミルの呪文が炸裂した… 「デス・プレス!!」 『ガブシュ!!』 辺りは異様な音と共に地にひれ伏し、 ダギオン2体は地面に空いたクレーターの中心で潰れたいた… カーナはロングソードを肩にかつぎ、信じられない… と言った顔をして立ちつくす少女の前に歩み寄った… 「ん〜…大丈夫そうだね♪」 言ってカーナはにっこり笑った… 「まぁ…なんだかんだ言っても魔法学院の生徒だからね…ここまで来ただけでも 大した物よ♪」 そう言い放つとハミルもにっこり笑いながら歩み寄った… 次の瞬間…おどおどしながらその少女は口を開いた… 「あ…あのぉ〜…違うんです、私…何が何だか…逃げてる内にこんな所まで…」 「………」 ハミルとカーナは(はぁ?)と言わんばかりの顔になり… 冷や汗を流しながらお互いの顔を見合わせた… しばらく続く沈黙…それを破ったのはハミルであった… 「…じゃ〜…何?…他の学院生達は?」 申し訳無さそうにうつむき、上目ずかいの少女は… 学院の方を指さし、口を開く… 「あの…まだあっちの方で戦ってるかと…はは…」 そう言い終わると少女は冷や汗を流しながら、 せえいっぱいの引きつった笑いをハミルに返した… 「……なるほど…」 そう言うとハミルは右手を顔に当て、うつむきながら(はぁ〜…) と小さくため息をついた… それを見かねたカーナが少女に話しかけ始めた… 「あはは…生きてて良かったね〜♪」 少女は少しビックリした様な顔をしたが… やがて暗い顔になり、ぽつりと言葉をこぼした… 「…す…すいません…」 それに反応する様にカーナが慌てて切り返す… 「え?…違う、違う…そう言う意味じゃ無いんだよぉ〜♪… 別に攻めてるんじゃ無いよ〜♪こう言う闘いではね〜、 逃げるのも有りなんだよ〜?こんな闘いで命を落とす のはバカバカしいじゃない?…私が言ったのは、そのままの意味だからさ〜♪」 少女はキョトンとした表情に成り、目をまん丸にして 驚いていた…がやがてハミルの方を見るとまたくら〜い顔をして うつむいてしまった…それを見て取ったカーナはまたしゃべりかける… 「あぁ〜…ハミルね〜♪…あれは多分、あなたの事を怒ってるんじゃ無いよ…」 そう言うとカーナはハミルに相づちを求めた… 「ね?…ハミル♪」 それに答える様に、ハミルは面倒くさそうに口を開いた… 「ん?…まぁ〜ね、あたしが怒ってるのはクリムとエロじじいよ…」 『エロじじいっていったい…』 とカーナと少女は顔を見合わせた…が、すぐに少女が言い放つ… 「あ…あの、クリム教官は悪く無いんです…呼ばれても居ないのに私が勝手に…」 そこまで少女がしゃべると、ハミルがゆっくりと振り向き… 少し驚いた顔で少女に問いかけた… 「…あなた…名前は?」 「あ、…ティア…ティア・マードです」 少し慌ててティアは答えた… そして、ハミルはなおも問いかけた… 「…じゃ〜ティア、こんな危険をおかしてまで…何故ここに?」 ティアはゆっくり顔を上げ…そして真剣な眼差しに変り… そしてゆっくりとハミルの問いかけに答えた… 「私…どうしてもハミルさん…ハミル・ガーランドさんに会いたくて…」 「わ…わた!…たわし…いや、私に〜!?」 慌てふためくハミルを後目にカーナがニンマリと 意地悪そうな笑いをうかべて言う… 「ハ〜ミ〜ル〜♪…良かったね♪ファンが居て〜♪」 「バ…バカ言いなさい!…何であたしにファンなんか!」 そんなやりとりを見ていたティアは… 相変わらずキョトンと目をまん丸にして、 二人の話を聞いていた…が、突然口を挟んだ… 「あ…あのぉ〜…別にファンと言う訳じゃぁ〜…」 「え?…違うの?」 突然の言葉にカーナはビックリして声を出した… その横でガックリとハミルが肩を落とす…のをカーナは 見逃さなかったが、本人が違うと言うのだから… そうなんだろうと思い、ハミルの方を振り向くと… ハミルはまるで公園でひとりぼっち…と言わんばかりに、 しゃがみ込み、寂しそうに土をいじりながら、 何やら悲しげな歌を小声で歌っていた……。 「…ハ…ハミル…」 冷や汗を流しながらカーナは後ずさる… 同じく、その光景を目の当たりにしていたティアが… 「…わ…私…変な期待させちゃったんですかね?」 と引きつった笑いを浮かべ、呟いた… カーナはハミルを見ながら… 「…本当はうれしかったんだね…ハミル…」 とつぶやき、滝の様な涙を流しながら、 何かにじっと耐える様に…口を結び、 空を見上げている… ティアは、何故か自分が重大な犯罪をおかしたかの様な 罪悪感に襲われ…オロオロとハミルとカーナを交互に 見返すのがせえいっぱいであった…。 つづく…(笑) |